日本のエネルギー自立への道
桐生 悠一
[黒潮発電資料5]

特願2014-214841 潮流発電に用いる海底基礎と係留索



1.概 要


(1)要 約 書

【課題】係留型の潮流発電船は、発電時に潮流より受ける大きな推力を係留索に受けて船体は沈み込み、その反力として海底の基礎に大きな引き上げ力が加わるが、そのような負荷条件に好適な海底基礎の技術は確立していない。また、現実の施設運営で発電船が一時的にサイトを離れる場合の係留索の始末についての具体的提案が見られない。
【解決手段】小負荷の場合には係留索の伸びる方向に直角になるように海底に杭を設け、大負荷の場合は海底に基礎構造体を埋設する海底基礎を設け、共に係留索上の発電船の近くに中継ブイを設けて、操業時には中継ブイに発電船側の係留索を連結し、サイトから発電船が離れる場合には中継ブイから自船の係留索を解放し、中継ブイは海上に浮上する係留方式を提供する。この運営方式により、埋設型 海底基礎建設時以外には海中での作業は一切なくなり、通常運営時に必要な作業は全て海上で行うことができ、潮流発電開発を加速させることができる。


(2)発明の効果

本発明は、係留型発電船を海底基礎に係留するための海底基礎は、地上での建築物・工作物と異なり、 上方へ向かう巨大な引張力を受けるため、その負荷に耐える機能を実現する技術を提供する。 また、そのような海底基礎に発する係留索の端末に中継ブイを設けて、発電船がその係留索から離脱 する場合や、復帰する場合に必要となる作業の一切を海上で行える技術を提供する。これら技術の適 用により、発電船型の係留型潮流発電の実用化を促進することができる。


(3)産業上の利用可能性

数百〜数千kW級の潮流発電実験・実証船から、数万~数十万kW級の大出力潮流発電船は、発電船 を潮流に対して一定の位置を保つように係留する係留索と、その係留索を海底に拘束する海底基礎を 必要とする。本発明は現在技術の応用で実行可能な海底基礎の構造を提供し、かつ、潮流発電船が海 底基礎に発する係留索を離れなければならない場合に、中継ブイを用いることで係留索と潮流発電船 の役割分担の関係を合理的に構成することで、海中での作業を極力減らすことができ、海中作業の困 難さが阻んでいる潮流エネルギー利用への実用化促進を可能にする運用方式を提供する。



2.図面による説明


(1)全体構造図

図 1 に海底 2 の基礎 3 から発する基礎側係留索4 の先端に中継ブイ 5(係留中継点)があり、その先端が船側係留索 7 に接続されている場合と、解放されているため中継ブイ 5 が海面に浮上している場合の両者を同時に描いている。
潮流発電船 6 の発電パネル 8 が発電モードにある場合は、潮流発電船の巨大な抗力を係留索は斜め方向で係留するため、その張力に引き込まれて、中継ブイは斜線の上に位置するようになる。
潮流発電船が船側係留索 7 を中継ブイから切り離してこの位置から去ると、中継ブイは浮上して自らの位置を知らせ、次の係留を待つ。この仕組みがこの発明の中核であり、以下、各要素技術について開示した。
海底基礎と係留索と発電船の関係
図1.海底基礎と係留索と発電船の関係



(2)シンプルな斜め基礎3

図 1 の海底基礎 3 は潮流発電船を係留時に直線状に伸びる係留索 4 に直角に基礎杭 3 が打ち込まれている状況を示す。小型の潮流発電船の場合は、この程度の海底基礎でも使用可能であろう。通常の土建工事のように垂直に杭を打ち込んだのでは、斜めの係留索に加わる大きな張力の垂直成分が基礎杭 を引き抜いてしまう。引き抜かれないための技術が幾つか存在するが、海底が岩盤であればかなり難 しい状況である。



(3)埋設海底基礎

図 2 が一旦岩盤を堀抜いて生じた空間に基礎体 10 を設置し、その上に掘削作業で得た元岩盤である岩石を埋め戻してコンクリート等で一体化させ、これらの素材の重量で係留索からの斜方からの強力 な力に抗しようとする埋設型海底基礎である。これもシンプル過ぎて気恥ずかしいが、最も確実な海底基礎でなかろうか。
実際にどのようにして海底でこれだけの工事をするかに関して、建設業界からの提案を望みたい。
埋設型海底基礎
図2.埋設型海底基礎



(4)移動型海底基礎

移動型海底基礎の側面図
図3.移動型海底基礎の側面図
移動型海底基礎の正面図
図4.移動型海底基礎の正面図
小出力係留型潮流発電船の実証試験段階では、日本海域の各地に有望な発電サイトを捜す段階があろう。その都度、恒久的な海底基礎を建設する訳には行かない。一時的な海底基礎が必要である。 対応方法は何通りか考えられる。これはその一例である。
移動型海底基礎 12 は移動時は海面に浮上して自力航行し、目的地へ来たら潜水して基礎の適地を自 力でか遠隔操作の人間の判断に従って決定し、適地が選定できたら海底に着地して保持スリーブ 14 から掘削杭 13 を迫り出しながら岩盤 2 を掘削し、所定の深さまで掘削杭が挿入できたら海底基礎と しての働きに入る。掘削杭 13 が図1の斜め杭状態になっている。岩盤との固着力には期待しない。 任務が完了すれば掘削杭 13 を保持スリーヴ 14 の働きで岩盤 2 から引き抜き、本体 12 は浮上して次 の任務につく。
万一、掘削杭 13 の引き抜きに失敗したら、保持スリーヴ 14 ごと本体 12 から切り離し、放棄して浮 上する。そのため、正面図に見るように下すぼまりのテーパー面に保持スリーヴ 14 を取り付けてい る。浮上は本体内部の海水を高圧排水ポンプで排出し、本体内部を真空状態にして浮力を得る。 相当に高度な自律作業機械であり、これ自体が大きなプロジェクトになるかも知れない。

























(5)中継ブイ5の具体例

中継ブイを側方から見た中央部断面図
図5.中継ブイを側方から見た中央部断面図
後方から見た中央部断面図
  図6.同、後方から見た中央部断面図
中継ブイ 5 の要求仕様は、1非係留時は係留索を引きずって海面まで浮上する、2係留時は係留索は直線 25 に沿うので、これを邪魔しない位置で姿勢を安定に維持する、係留索を捻ったりする動作は 絶対に行わない、3船側係留索 7 との連結動作がスムーズに行われること、4流体力学的に低抗力であること、などである。案外難しい仕様で、これこそ関心を持つ人の数だけアイディアがありそうだ。 上図のアイディアは私の苦し紛れのアイディアだと思って欲しい。もっとスマートなアイディアを待 つ。




















(6)係留索の構造

図7は係留索の断面図である。炭素繊維ケーブル 26、絶縁体 27、保護外装 28 が見える。係留索は張力部材であるから、炭素繊維がベストである。だが、剥き出しで長期間使用すると、海草のワ カメや稚貝のフジツボなどの海生生物が付着して酷いことになる。また、海底の環境からの打撲、折り曲げ等の機械的浸害がある。保護外装は若干の1機械的強度と、2海生生物の付着防止機能を備えたい。保護外装にチタン材を用いるとこれらの要求仕様のかなりを満足させられる。更に保護外装に 1V 程度の負電圧を印加すると海生生物の付着防止に大きな効果があるとの研究発表があった。
図 7 の係留索の構造は、それらの仕様をある程度満足する。
係留索の部分断面図
図7.係留索の部分断面図



3.コメント

(1)中継ブイというコンセプトは大変良かったと思う。年単位の黒潮の流路変動に対応できる説得力ある具体的提案である。
(2)図面に表された具体的構造は洗練されていないように感じる。もっと良いアイディアが提案される切 っ掛けになれば幸いである。


出願 2014/10/3
2015/3/20  桐生悠一