亜臨界水反応によるごみ処理法
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亜臨界水反応ごみ処理施設についての考察

1.亜臨界水ごみ処理の特長

●煤煙や有毒ガスの排気がない、臭いを出さない

 ごみ処理施設を新設するに当たって周辺住民の理解が不可欠です。従来のごみ焼却場では大量の煤煙の排出があり、ダイオキシンなどの有毒ガスの排出も懸念されます。さらに臭気、騒音などもあり、居住地域に近い場所でごみ焼却施設を建設することは難しくなっています。
 亜臨界水の加水分解反応によるごみ処理の分解物は水と炭酸ガスであり、煤煙や有毒ガスは出ません。水は亜臨界水槽に戻されて再利用され、一部は浄化・冷却後排水されます。炭酸ガスは、生ごみの場合は生物由来であり、カーボンニュートラルの原則により地球温暖化ガスとして算出されません。ごみ焼却施設では水を大量に含んだ生ごみを燃やすのに大量の化石燃料消費による温暖化ガスの排出がありますが、亜臨界水を作るための加熱に使うボイラーの燃料はわずかです。また、亜臨界水処装置そのものが臭気や騒音を出すことはありません。

●生成物の有効利用も可能です

 亜臨界水反応生成物の事後処理装置を変えることにより以下のような有効活用ができます。
    (1)発酵により炭酸ガスや水にまで分解し、浄化後自然界に放出する。(イビデン)
    (2)発酵により肥料にする。(伊賀国友産業)
    (3)生成物から有効成分を分離抽出す。(近畿環境興産)
    (4)発酵によりメタンガスを生成させ、エネルギー源とする。(三菱長崎機工)
 それぞれ実証プラント例をご参照下さい。

●運転がごみの量に左右されない。ごみ減量化・資源化の流れに対応

 ごみの分別・資源化が進み、ごみの量は年々減少しています。これは本来のあり方ですが、ごみ量が減少したため、ごみ焼却場の稼働率が軒並み低下するという皮肉な事態を招いています。ごみの量が少ないと燃焼温度が下がり、ダイオキシンなどの有害ガスを発生します。また燃焼温度の高低の変化が大きいと施設を劣化させる原因になります。そこで燃焼温度を高くする為大量の化石燃料を使っています。これは地球温暖化対策に逆行するものです。ごみの減量化・資源化が進むほど焼却炉のごみが不足し、大量の燃料を消費するという矛盾を抱えています。
 亜臨界水方式では運転効率がごみの量に左右されず一定であり、各地で進められているごみの減量化・資源化の流れに合致した理想的なごみ処理方法です。

●生ごみの含水量と処理効率の関係

 生ごみは60%以上が水であり、焼却する場合、非常に含水量の高いものを燃やすことになり、燃焼効率が低く、大量の燃料が必要です。一方、亜臨界水処理ではごみを水で処理するため、ごみの含水量は全く問題になりません。

●処理後の残渣が少ない

 最終処分場(日の出町)のごみの埋め立ては満杯状態に近づいています。埋め立ての大半がごみ焼却場からの焼却灰です。その対策として焼却灰からエコセメントを作っています。しかし、エコセメントの製造段階で大量の燃料を使い、大変高いコストがかかっています。一方、エコセメントは、引き取り手が少なく、自治体で道路の敷石などでの使う程度です。
 抜本的対策は、焼却灰を出さないことです。亜臨界水によるごみ処理では残渣がほどんど出ないため、最終処分場の問題は解決します。

●確立されている技術の集積で可能

 亜臨界水による分解方法は、確立されています。それをごみ処理に応用するものです。家庭から出る一般ごみではいろいろなものが混在する場合があり、分別などの事前処理が必要となることがあります。また、生成物を処理する事後処理も必要です。これらの事前処理および事後処理はいずれも他の産業で確立しているものです。亜臨界水ごみ処理は、信頼性の高い既存技術の集積であり、新しく開発する技術を待つことなく実現可能です。

●安全性が高い

 安全性が保証されている既存の技術の集積です。亜臨界水ごみ処理は、20気圧、200℃の亜臨界水による加水分解です。一般家庭で使われているエアコンは15気圧、エコキュートは100気圧のガス圧力で運転され、水素自動車は、200-300気圧の水素ボンベを積んで街中を走ります。安全装置を付けるのは当然のことですが、20気圧、200℃は、安全性を問題視するほどの厳しい条件ではありません。

●焼却施設に比べて狭い面積で設置可能で建設費も低い

 可燃ごみを日量150トン処理する施設を建設する場合、本体と関連施設を含めてごみ焼却施設の場合、約1万平米を必要としますが、亜臨界水施設では約半分の5千平米で済みます。
 建設費はごみ焼却施設の約半分で済みます。

●運転コストが比較的低い

 燃料を使うのはボイラーだけで、実証プラントでは月5千円程度と燃費はわずかです。処理サイクルの最後で亜臨界水を冷却しますが、これを蓄熱材等へヒートリサイクルして原水の予備加熱に再利用すれば、更にボイラー燃費を殆ど要しない理想のシステムになり得る可能性があります。さらに亜臨界水処理では残存固形物を焼却処理した場合を加えても、ごみの焼却に大量の燃料を使う焼却方式の1/25以下の燃費で済みます。

●メインテナンスおよび耐久性

2.亜臨界水ごみ処理の課題

●雑多なごみが混ざる一般ごみへの対応

 ごみを分別して出すのが原則で多くの市民はそれを守っています。ところが、分別せずに燃やすごみを出す不届き者もいます。燃やすごみの中に紙、金属などの資源ごみが混ざっていることがあります。資源の有効利用という観点からも、亜臨界水処理の効率を上げるためにも紙や金属などの資源ごみの分別、有害物の除去などの事前処理が必要です。イビデンの実証施設では、今後1年間いろいろな場合を想定した実験をしてそれらの対策をこうずるということです。

●事故への対応

 亜臨界水処理で生成した加水分解物の発技術は排水処理などで確立していますが、万が一にでも起こる可能性のある菌の死滅という事故も想定しておかなければなりません。その対策として発酵槽を複数並列化したり、菌の維持または新たな菌の迅速な入手の手だてを打っておく必要があります。
 亜臨界水処理槽本体についても複数並列の分散型にするなど事故対応やメインテナンス上の工夫が必要です。

3.亜臨界水ごみ処理のまとめと評価

公害をまき散らすごみ焼却場を新たに建設することは難しくなっています。上記1の特長の項で掲げたように、亜臨界水ごみ処理は、煤煙や有毒ガス、臭気を発生しない無公害型のごみ処理施設で、近隣住民に比較的受け入れやすいと予想されます。ごみを埋める最終処分場の確保はますます難しくなり、埋立ての大半を占める焼却灰を減らすことが求められています。亜臨界水ごみ処理では残渣がほとんど出ないので、ごみ埋立ての問題は生じません。

 コスト面では建設費、運転費ともごみ焼却に比べて大幅に少なくなります。また、ごみ焼却施設に比べて狭いところでも設置可能です。安全面と耐久性に関して亜臨界水装置の圧力(20気圧)と温度(200℃)は、家電製品など同じレベルであり、問題はありません。

 ごみの分別と資源化が進み、燃やすごみの量が減少し、焼却場のごみが不足し、燃焼に支障を来すという皮肉な事態を招いています。その為、燃焼温度を上げる目的で大量の化石燃料が使われています。亜臨界水処理ではこのような事態は起こりえません。ごみの分別と資源化は今後ますます進展して行くでしょう。ごみの量に柔軟に対応出来るのは亜臨界水処理の大きな長所であり、ごみゼロ社会に相応しいごみ処理施設です。
評価項目 亜臨界水処理 焼却処理
 煤煙と有毒ガス 排出なし 排出あり
 臭気 本体からゼロ 焼却時に出る
 処理後の残渣 殆どなし 大量の焼却灰
 建設費 焼却施設の半分 80-100億円
 ランニングコスト 燃料消費わずか 大量の燃料消費
 安全性    
 耐久性    
 含水率の高い生ごみへの対応 本来水処理であるため不用 大量の燃料を使う
 ごみ量への柔軟性 運転がごみ量に左右されない 運転がごみ量に左右される